
児童発達支援事業所「こっこ」が送迎を行わない理由
「送迎はありますか?」
児童発達支援事業所を探している保護者の方から、よくいただくご質問です。
「送迎はありません」とお伝えすると、驚かれることがあります。
それでも、認定NPO法人発達わんぱく会が運営する児童発達支援事業所「こっこ」は、送迎を行っていません。
その理由は、親子で通う時間、保護者が療育を見ること、そして療育者と保護者が一緒にこどものことを考えることも、こっこの療育の大切な一部だと考えているからです。
送迎を行わないのは、「親子同伴の療育」を大切にしているから
こっこでは、保護者の方がお子さんを連れて通園します。
玄関付近で身支度を手伝い、「いってらっしゃい」と送り出して終わりではありません。
その後も、保護者の方にはお子さんの療育の様子を見ていただきます。活動によっては、親子で一緒に療育に参加することもあります。
そこには、大切な理由があります。
療育者がお子さんにどのような言葉をかけているのか。
すぐに手伝うのではなく、どのくらい待っているのか。
お子さんが困ったとき、どのような方法で気持ちを伝えているのか。
そして、その働きかけに対して、お子さんがどのような姿を見せるのか。
保護者の方が実際に見ることで、言葉による報告だけでは伝わりにくい「わが子との関わり方のヒント」を知ることができます。
時には、
「家ではこんなことをしないのに!」
「こんなに待てるんですね」
「自分から伝えられるんですね」
と、保護者の方が驚くこともあります。
普段、家庭では見せないお子さんの姿。
今まで気づかなかった成長。
お子さんの新しい一面。
それを保護者の方自身が目の前で見ることを、こっこではとても大切にしています。
療育者は、こども一人ひとりの発達や特性に合わせて関わり方を考えています。
例えば、言葉を短くする。
目で見て分かるように伝える。
すぐに答えを教えず、少し待つ。
一度にたくさん伝えず、一つずつ伝える。
できた結果だけではなく、「やってみようとしたこと」に気づいて言葉をかける。
保護者の方は、療育者とお子さんのやり取りを実際に見ることができます。
そして、
「こう言えば伝わるんだ」
「少し待ってもいいんだ」
「家でもやってみよう」
と、家庭での関わりに取り入れていきます。
療育で使っている関わり方と家庭での関わり方が少しずつつながっていくと、お子さんにとっても大人からの働きかけが分かりやすくなります。
「次に何をするのか分からない」
「何を求められているのか分からない」
そんな戸惑いが減ることで、お子さん自身が安心して過ごしやすくなることがあります。
こっこが目指しているのは、療育室の中だけで「できること」を増やすことではありません。
療育で見つけた「その子に伝わる関わり方」を、ご家庭の日常につなげていくことを大切にしています。

この考え方は、こっこ独自のものだけではありません。
WHO(世界保健機関)、UNICEF(国連児童基金)、世界銀行グループなどが2018年に公表した「Nurturing Care Framework(養育ケア・フレームワーク)」では、乳幼児期の発達を支えるためには、こどもへの働きかけだけではなく、親やその他の養育者がこどもに応答的に関われるよう、養育者を支えることが重要だと示されています。
また、WHOが2020年に公表した『Improving Early Childhood Development: WHO Guideline』では、乳幼児期のこどもに「応答的な養育(responsive caregiving)」が提供されること、そして親やその他の養育者が、そのような関わりを行えるよう支援されることを推奨しています。
家族中心型支援に関するDunst、Trivette、Hambyのメタ分析では、7か国・11,000人以上を含む47研究が検討され、家族中心の支援実践と、保護者・家族・こどもの状態や機能との関連が分析されています。
つまり、乳幼児期の発達支援では、「専門家がこどもに何をするか」だけでなく、「日常的にこどもと関わる養育者をどのように支えるか」も重要な視点なのです。
こっこが親子同伴の療育を大切にしている背景にも、この考え方があります。
親子で通っていただくもう一つの大きな理由があります。
それは、保護者の方を一人にしないためです。
こっこでは、保護者の方がお子さんの療育を見学している時間に、別の療育者と話をする機会があります。
「家では癇癪が続いていて……」
「最近、きょうだいとの関わりで困っています」
「保育園では大丈夫と言われるけれど、家では大変です」
「この関わり方で合っているのでしょうか」
子育ての中で感じている困りごとや、日頃なかなか人には話しにくい不安を相談することができます。
療育者は、目の前でお子さんの姿を見ています。
そのため、
「今日も同じような場面がありましたね」
「こういう伝え方だと分かりやすそうでした」
「今はここまでできています。一緒に次の方法を考えてみましょう」
と、実際のお子さんの姿を共有しながら話すことができます。
保護者の方が抱えている不安を言葉にすること。
誰かと一緒にこどもの姿を整理すること。
「これでいいのかもしれない」と思えること。
そうした時間によって不安が少し軽くなり、日々の子育てに前向きな気持ちを取り戻せることがあります。
こっこが支援するのは、お子さんだけではありません。
お子さんを毎日育てている保護者の方も含めて、一緒に支えていく。
それが、こっこの療育です。
あるお子さんは、活動の切り替えが苦手でした。
家庭では、遊びを終わりにしようと声をかけると泣いてしまい、保護者の方も毎日の対応に悩んでいました。
「何度言っても終われないんです」
「最後は私も怒ってしまって……」
保護者の方は、そう話していました。
ある日の療育で、そのお子さんが好きな遊びをしていました。
活動終了の時間が近づくと、療育者は突然「おしまい」とは言いませんでした。
次の活動を目で見て分かるように示し、「あと一回」と短く伝えました。
そして、少し待ちました。
お子さんはもう一度遊び、やがて自分でおもちゃを置きました。
保護者の方は、その様子をすぐそばで見ていました。
「終われるんですね……」
保護者の方が驚いたように話しました。
療育者は、
「終われないのではなくて、終わりが分かりにくかったのかもしれませんね」
と伝えました。
保護者の方は、ご家庭でも同じように「あと一回」と伝え、次にすることを分かりやすく示してみました。
すべてがすぐにうまくいくわけではありません。
それでも、少しずつ切り替えられる場面が増えていきました。
これは、保護者の方が療育を実際に見ていたからこそ、ご家庭につながった支援の一例です。
連絡帳に「今日はスムーズに切り替えられました」と書かれているだけでは、「なぜできたのか」までは分からなかったかもしれません。
こっこでは、この繰り返しを大切にしています。
※事例は、個人が特定されないよう内容を一部変更・再構成しています。
送迎サービスの価値を否定しているわけではありません。
ご家庭の状況によっては、送迎があることで初めて療育を利用できる場合もあります。
それぞれの事業所には、それぞれの役割があります。
その中で、こっこは「親子で通う療育」を選んでいます。
保護者の方が、わが子の療育を見る。
時には、一緒に参加する。
今まで知らなかったわが子の姿を知る。
療育者の関わりを見て、家庭で試してみる。
困っていることや不安を療育者に話す。
そして、こどもの成長を一緒に喜ぶ。
私たちは、この時間そのものに大きな意味があると考えています。
だから、こっこは送迎を行っていません。
私たちが目指しているのは、療育室の中だけでこどもが過ごしやすくなることではありません。
お子さんとご家族が、毎日の暮らしの中で少しでも安心して、笑顔で過ごせる時間が増えていくこと。
親子で通い、見て、知って、一緒に考える。
こっこはこれからも、ご家族とともに、お子さんの小さな一歩を支えていきます。
・World Health Organization, United Nations Children's Fund, World Bank Group. Nurturing Care for Early Childhood Development: A Framework for Helping Children Survive and Thrive to Transform Health and Human Potential. 2018.
・World Health Organization. Improving Early Childhood Development: WHO Guideline. Geneva: World Health Organization; 2020.
・Dunst CJ, Trivette CM, Hamby DW. “Meta-analysis of family-centered helpgiving practices research.” Mental Retardation and Developmental Disabilities Research Reviews. 2007;13(4):370–378. doi:10.1002/mrdd.20176.
・Bronfenbrenner U. The Ecology of Human Development: Experiments by Nature and Design. Cambridge, MA: Harvard University Press; 1979.